近年、我が国においては何らかの「メンタルヘルス不調」を抱えている方は年々増加し、医療機関を受診される方も年ごとに増えています。そして、「メンタルヘルス不調」の内容は不安、うつ症状を中心に、学校・職場不適応、ひきこもり、自傷行為、認知機能障害など症状は多岐にわたります。
また、2020年初頭から始まった新型コロナウイルス感染症は、私たちに様々な不安をもたらし、若年自殺者の増加など大変大きな影響を受けました。これらの動向については、少子超高齢化、家族機能の低下、高度情報化、孤立・孤独の増加、格差拡大など社会文化的な変化が背景にあると考えられ、特にコロナ禍の影響で顕著になった人同士のコミュニケーションの減少が大きく影響していると考えられます。
当院では以前から、「一人一人を大切に、人と人とのつながりを大切に」を基本理念とし、個人個人を尊重すると同時にコミュニケーションを通じた人同士の関係を大切にして参りましたが、今後はますます、精神医療のみならず、社会全般でその重要性が増していくこともあり、今後とも大切にしていきたいと考えています。
当院のこれまでのことについてですが、当院は令和2年にはおかげさまで開設60周年を迎えることができました。これまで当院に関わって頂いた患者様、職員、各関係機関の皆様に対し、これまでの当院へのご理解ご支援に対し、深く御礼申し上げます。
当院は、昭和35年に現在の地である川崎市多摩区登戸に診療所として開設された当初から、患者様個人を生い立ちから特性、環境面、生物学的側面などから多面的に捉えながら診療を実践することを特徴とし、精神分析的精神療法、認知行動療法的アプローチなどをはじめとした心理社会療法を重点におきながら、近年では薬物療法、作業療法、デイケア(1993~)、うつ病復職支援デイケア(2007~)など、リハビリテーション部門にも力を入れて参りました。そして診療の対象とする患者様の疾患の範囲も増やし、産業メンタルヘルスのニーズ拡大に応じた不安・うつ病などのストレス関連疾患を対象とした開放病棟の整備、うつ病休職者対象の復職支援デイケアの開設、神奈川県精神科救急当番病院としての診療の開始、入院適応外で在宅治療を要する方への精神科訪問看護の開始もいたしました。
当院の診療面でのもう一つの特徴としては、医師、看護師、精神保健福祉士、作業療法士、臨床心理士、薬剤師、事務員などで構成される多職種治療チームによる診療を行っていることがあります。このルーツは当院で1990年代から概念化された、多職種の治療チーム、患者様と職員によるコミュニケーション、治療システムなどの治療環境自体が患者様の発達・治癒過程を促進するという「環境療法」の考え方があります。すなわち、当院の診療環境に滞在すること自体で治癒・回復促進になるという目標を設定して参りました。当院ではこの多職種チームによる入院治療、デイケア、うつ病復職支援デイケア、訪問看護などの在宅支援を実践しており、この「環境」による治癒・回復へむけての支援の力を伸ばしていきたいと思っております。
今後の我が国の精神医療は、人口構成の変化や価値観の多様化および個人の権利擁護、多発化する自然災害などをはじめとした種々のストレス要因に起因する多様なメンタルヘルスの問題に対処していく必要があります。そして今後は精神疾患の「症状」の軽減や精神機能の回復のみではなく、「その人らしさの発見や幸福感の獲得」などの社会機能の回復(パーソナルリカバリー)への目標も重要視されています。今後とも当院は、これらの課題達成を目指していきたいと思いますので、川崎市北部における精神保健福祉領域における地域連携拠点として、地域の皆様に信頼される病院をめざして職員一同、力をあわせていきたいと思いますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
学校法人明治大学、学校法人成城学園大学、児玉教育研究所、特別養護老人ホームしゅくがわら、SKYかわさき
(一社)川崎市医師会、(一社)川崎市精神科医会、(一社)神奈川県精神科病院協会、(公財)川崎市病院協会、慶應義塾大学医学部精神神経科科学教室、東邦大学医学部精神神経医学講座
川崎市精神保健福祉審議会、川崎市自立支援協議会、川崎市多摩区精神保健福祉連絡会議、川崎市北部メンタルヘルスネットワーク会議、多摩区防犯協会、多摩消防研究会