うつ病は、さまざまなストレスから生じる自然な感情としての気分の落ち込みとは違って、なかなか回復しない、持続するうつ状態が出現します。誰でもかかりえるという意味で、「心の風邪」と例えられることも多いですが、ご本人にとっては苦痛がはるかに強く、時に生命の危険に関わることから考えれば「心の肺炎」と言えるかもしれません。また再発したり、慢性化したりしやすく、回復の過程でリハビリが大切なことから考えて、「心の骨折」とも言っていいでしょう。
うつ病はおおよそ100人に7、8人が発症すると言われます。女性では男性の2倍見られ、若年層と中高年層の2つの年齢層で発症することが多いです。
双極性障害は、躁状態、軽躁状態とうつ状態が出現します。そのうち、双極Ⅰ型障害では、入院治療が必要になる等はっきりと分かりやすい躁状態とうつ状態が出現します。
双極Ⅱ型障害では、本人も周囲も困らず、あまり目立たない軽躁状態とうつ状態が出現します。おおよそ100人に1人が発症すると言われます。男女差はなく、10代後半〜20代で発症することが多いです。
心の症状と体の症状があります。
1 心の症状
2 体の症状
心身の休養は治療の大前提です。
1 薬物療法
うつ病の薬物療法の中心は、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)等の抗うつ薬です。躁うつ病の薬物療法の中心は、炭酸リチウム、バルプロ酸ナトリウム、ラミクタール等の気分安定薬です。オランザピン、クエチアピン、アリピラゾール等の抗精神病薬は、うつ状態にも躁状態にも使われます。必要に応じて、抗不安薬、睡眠薬も使われます。
2 心理社会的療法
心と体の生活習慣を見直して生活を整えることがまず大切です。睡眠をしっかりとって適度な運動をすることのほか、リラクゼーションやマインドフルネスは有用です。当院では、入院患者さん向けの「まいふるタイム」というプログラムで、リラクゼーション、マインドフルネスが体験できます。
認知行動療法は、認知(の考え方、受け取り方)の偏りに焦点を当てて、より幅の広いしなやかで柔軟な考え方をできるようにしつつ、楽しめる活動ややりがいのある活動を増やしたり、症状に影響している問題を解決したりして、適応力を高めて、治療していくものです。
心理教育は、患者さんとそのご家族に病気やその治療への理解を深めることを目的としたもので、患者さん自らが服薬の必要性を理解して、自らの意志できちんと服薬できるようになったり、ご家族からのサポートが強化されたりして、再発リスクを減らすと言われています。当院では、入院患者さん向けの「躁とうつの勉強会」を随時行っています。
うつ病や双極性障害はなかなか改善しないことがあります。うつ病と考えられていたケースで、よくよく見ていくと、軽躁状態が確認されて、診断が双極Ⅱ型障害に変更され、薬物療法を抗うつ薬から気分安定薬に切り換えて、症状が著しく改善したり、心と体の生活習慣を整えて、運動やマインドフルネスを取り入れて、症状が安定することもあります。現在の症状や治療をトータルで俯瞰して見直すことでさらなる改善を目指すことができます。